苔のむすまで

苔のむすまで

苔のむすまで

またもや、買ってはいたくせに読んでいなかった本。
のんびりと過ごしたい休日だったので、読書にあててみたり。

遊びをけんとや生まれけむ、
戯れせんとや生まれけむ、
遊ぶ子供の聲(こえ)聞けば
我が身さへこそ動(ゆる)がるれ

梁塵秘抄に収められた後白河法皇の一句を、杉本博司は常に心のどこかで意識しているという。
結局、芸術なんてものは「遊び」でいいのだと思う。


http://artphoto-site.com/story43.html
写真を用いた筆者の作品で「Theatre」シリーズがある。
映画館のスクリーンを映画一本上映している間、露光し続けた作品である。

Q:スクリーンの白い光は映画一本分を撮影して現出させたということですが、映画はどうなっているのでしょう。
A:映画は上映されていて、カメラはそれを見ていました。
Q:見ていたけれど写らなかったのですか。
A:写らなかったのではなく、写り過ぎたのです。
Q:写り過ぎて光になったのですか。
A:映画は写っていたというより映っていた、そして更に「虚ろ」へと写っていったのです。
Q:なにか、はぐらかされているような気がしますが、ではカメラと人間の目では見え方はどうちがうのですか。
A:カメラは記録はしますが記憶はしないということです。

その作品について、筆者はこのように表現する。
発想の原点は遊びのようなものだけど、光の本質とは何か、写真の本質とは何かということを深く掘り下げて考えているのだなと感じた。


海外を活動拠点にしている筆者だからこそ、「日本」というものを強く意識するのだろう。
エッセイではあるが、筆者の制作原点を感じることができる良書。
芸術に興味はないけれども、芸術の本質を知りたい方にこそ是非お勧めしたい。