あやし

あやし (角川文庫)

あやし (角川文庫)


実は宮部みゆきは時代物の短編を書かせると秀逸。
元々文体が古いくさいし、ご本人が生まれてからこのかた深川育ちということで、江戸の下町に愛着を持っている。そんな方が時代物を書かないでどうするのさ!と思います。実際、詳しく調べてから書いているようなので文体と相まって、しっくりと読み進められます。


時代物も大体読みましたがこの短編集が一番好きです。江戸時代の不思議な話をつらつらと書いています。
宮部みゆきの愛読書で「耳袋」という江戸時代の本があります。太平の世で暇を持て余した江戸の奉行が、市中の不思議な話を集めたものです。まぁ、私も持っていますが大抵はうわさ話の域を出ないものばかり。どこそこの旗本は仕事もないはずなのに経済的に裕福らしくて不思議だ・・とか、いきなり仏像が流行り出してうんぬん。そんな話が多くて江戸庶民の平和な暮らしぶりを伺えるのです。非常に興味深い。ま、古くさい文章なんであまりよく理解出来てはいませんが。


その「耳袋」をモチーフに書いたんじゃないかなぁと思うのが、時代物の短編達。
決して怖い訳ではなく、そっと後ろから首筋を撫でられたようなひやっとした感覚。それとともに人情味を感じられ、ぬくい気持ちになれる。作者の人を見る目の温かさと冷徹さを感じられます。


お勧めはこの中の一編。「安達家の鬼」
私の鬼のイメージとは大分かけはなれているんだなぁと思ったものでした。




最後に耳袋。

耳袋〈1〉 (平凡社ライブラリー)

耳袋〈1〉 (平凡社ライブラリー)

怪談集で耳袋という名前のものがありますが、こちらが元祖耳袋。